お金の話は、なかなか続きません。
投資の話題を振っても、たいてい「そういうのはよく分からない」で終わってしまう。悪気があるわけではなく、ほんとうに興味がないのだと思います。
ただ、私はもともと、そちら側ではありませんでした。
家には毎年、証券会社の封筒が届いていたからです。父が口座を持っていました。中身を読んだわけではありませんが、証券というものが家の中にある風景には慣れていて、株に特別な抵抗はなかったんです。
実際、2008年ごろには自分でも株主優待目当てで株を買っています。
それでも、つまずいています。2011年の震災の暴落で、持っていた優待株をいくつか売ってしまいました。いわゆる狼狽売りです。

では、なぜ日本人は投資をしないのか。今回は自分の感覚ではなく、公的な統計を調べてみました。出てきた数字は思っていたよりずっと分かりやすくて、そして少し身につまされるものでした。
日本の家計は、半分が現金・預金

まずは日本銀行が公表している、家計の金融資産の中身から。日本・米国・ユーロエリアを並べると、違いは一目瞭然でした。
日本の家計が持つ金融資産は2,184兆円。そのうち51%が現金・預金です。
株式は12%、投資信託は6%しかありません。いっぽう米国は現金・預金がわずか12%で、株式が42%。ユーロエリアもその中間くらいです。
よく「日本人は投資をしない」と言われますよね。
感覚ではなく、数字としてはっきり出ているわけです。半分を預金で持っている国は、先進国では少数派でした。
4人に3人は、株も投資信託も持っていない
もうひとつ、日本証券業協会が3年に1回、全国7,000人に聞いている調査があります。
株式・投資信託・公社債のどれかを持っている人の割合は24.1%。裏を返すと、4人に3人は、証券を1つも持っていません。
しかも同じ調査で「投資は必要だと思わない」と答えた人が57.1%。半分以上の人にとって、投資はそもそも選択肢に入っていないということになります。
この数字を見たときは、ちょっと意外でした。NISAがこれだけ話題になって、テレビでも新NISAの特集を見かけるのに、実際に動いた人はまだ4人に1人なんですね。
買わない理由の1位は、「興味がない」

同じ調査で、株式を持っていない人にその理由を聞いています。
私はてっきり「お金がないから」が1位だと思っていました。実際は違いました。
ダントツの1位は「株式に興味がない」55.6%。
2位が「十分な知識をまだ持っていない」26.5%、3位が「買うほどの資金がなかった」25.6%と続きます。「ギャンブルのようなもの」22.0%、「値下がりの危険がある」21.4%。
つまり多くの人は、投資を検討したうえで見送っているのではありません。
検討の土俵にすら上がっていない。ここがいちばん大きい気がします。
私が震災のとき、売ってしまった理由

ここからは統計ではなく、私自身の話です。
興味はあった。抵抗もなかった。買ってもいた。それでも下がった局面で売ってしまったのは、なぜだったのか。いま振り返ると、思い当たることが2つあります。
ひとつは、買った理由と売った理由がつながっていなかったこと。
私が株を買ったのは優待がほしかったからです。ところが売ったのは、株価が下がったからでした。優待は株価が下がっても同じように届くのに、値段のほうを見て手放している。
買うときの物差しと、売るときの物差しが違ったわけです。
もうひとつは、売り買いのタイミングを自分で決めていたこと。いつ買っていつ売るかを毎回自分で決めていると、暴落のような場面ではまともな判断ができません。あのときの私には、売らずに済ませる仕組みが何もありませんでした。
そして、これは今回の統計を見て思ったことなのですが。
投資の教育を受けたことがある人は、7.5%しかいませんでした。一方で、教育を受けた人にかぎると「投資は必要だと思う」が69.9%まで跳ね上がります。全体では42.6%ですから、その差は歴然です。
私も、この7.5%には入っていません。
買い方は知っていたけれど、下がったときにどうするかは誰にも習っていませんでした。株を買うことと、株を持ち続けることは、まったく別の技術だったんですね。
面白いのは、「やってみた人」の変化

今回いちばん面白かったのが、このデータです。
同じ調査の中で、投資のイメージを「証券を持っている人」と「預貯金だけの人」に分けて聞いています。
「なんとなく怖い」と答えた人は、預貯金だけの人で32.3%。ところが証券を持っている人では13.4%まで下がります。「お金持ちがやるもの」も27.5%から9.9%へ。逆に「資産を増やせる」は27.3%から56.4%と、倍以上に増えます。
つまり怖さは、知識ではなく経験で減っていく。
ただ、私はここで素直にうなずけませんでした。

私の場合、経験があっても売ってしまったからです。何年か持っていたうえでの暴落だったのに、下がった局面ではきれいに手放しています。
経験しさえすれば怖くなくなる、というほど単純ではないと思います。
それでもこのデータが的を射ているのは、たぶん持ち続けられた人の話だからでしょうね。売らずに持っていられた人は、下がる局面も含めて経験として積み上がっていく。私は一度そこで降りてしまいました。
数字は、静かに動き始めている
悲観的な話ばかりではありません。証券の保有率は3年前の19.6%から24.1%へ、「投資は必要だと思う」は30.9%から42.6%へ増えました。NISA口座も2,820万口座、買付額は累計で約71兆円に達しています(2025年12月末時点)。
政府は2027年末までに3,400万口座・買付額56兆円という目標を掲げています。
買付額のほうは、すでに超えました。
71兆円ですから、期限を待たずに目標を上回っています。いっぽう口座数は2,820万で、3,400万にはまだ600万近く足りません。お金は集まったけれど、人はまだ増えきっていないということですね。
それでも、少なくとも流れは変わってきている。15年前の空気を知っている身からすると、ずいぶん変わったな、というのがいまの感想です。
立て直したのは、制度が変わってからだった
これではいけない、とは思っていました。
ただ、思っているだけでは戻れません。同じやり方で買い直せば、次に下がったときにまた同じことをするのは目に見えていましたから。
変わったのは、制度のほうが動いてからです。
2014年1月にNISAが始まり、2017年1月には公務員もiDeCoを使えるようになりました。この2つができて、私はようやく積立という形に切り替えています。
効いたのは、非課税よりも「毎月自動で買う」という仕組みのほうでした。
買うタイミングを自分で決めなくていい。下がった月も、勝手に買われている。iDeCoにいたっては、そもそも簡単には引き出せません。震災のときの私に足りなかったのは、まさにこれだったと思います。
インデックス投資の力を実感したのは、ここからでした。
相場を読む必要も、銘柄を選ぶ必要もない。毎月同じ額を積み上げていくだけで、放っておいても増えていく。あれこれ考えて売り買いしていた頃より、はるかに成績が良くなりました。
いまでは配当で月20万円という目標を掲げて、毎月の資産も公開するところまで来ました。
もっとも、増えたら増えたで別の悩みも出てきます。使う段になって手が止まるという、我ながら贅沢な悩みで、これは「使えない病」の記事に書いたとおりです。暴落で慌てて売っていた頃には、まさか自分が「使えないこと」で困る日が来るとは思ってもいませんでした。
調べて分かったこと
- 日本の家計は金融資産の51%が現金・預金。米国は12%、株式が42%
- 証券を持っている人は24.1%。4人に3人は持っていない
- 買わない理由の1位は「興味がない」55.6%。検討の土俵に上がっていない
- 証券を持つ人は「なんとなく怖い」が13.4%。持たない人の32.3%より大幅に低い
- ただしそれは「売らずに持ち続けられた人」の数字。私は一度、そこで降りている
なぜ日本人は投資をしないのか。統計が出した答えは、はっきりしていました。知識でも資金でもなく、興味がないからです。検討の土俵に上がっていない人が、いちばん多い。
ただ、私自身はそこに当てはまりませんでした。
興味はあった。家に証券会社の封筒が届く環境で育って、自分でも株を買っていた。それでも震災の暴落で売っています。始めることと、続けることは別の問題だったわけです。
だからもし誰かに聞かれたら、私が勧めるのは2つです。
ひとつは、なくなっても困らない金額で始めること。入口は優待でも積立でも、1株からでも構いません。金額が小さければ、下がった日にも売らずに済みます。あのとき私が慌てたのは、自分で決めた金額が自分にとって大きかったからでもありました。
もうひとつは、売らずに済む仕組みに乗せることです。
毎月自動で買われる積立なら、買うタイミングを迷う必要がありません。私が立ち直れたのは、意志を強くしたからではなく、意志を使わなくていい形に変えたからでした。
私が55歳でのFIREを目指すところまで来られたのも、スタートは優待めあての1銘柄と、一度の失敗からです。


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