みなさん、国民健康保険料がどうやって決まるか、ご存じですか。
私は知りませんでした。
勤めているうちは給料から天引きされます。金額を見ることはあっても、自分で計算する機会はまずない。
ところが55歳で退職するとなると話が変わります。勤め先の健康保険を離れて、自分で国民健康保険に入ることになる。そして保険料は、前年の所得で決まります。
配当で月20万円を目指している私にとって、これは避けて通れない話でした。
調べていて、いちばん驚いたのがここです。金融所得が保険料に入るかどうかは、自分がどう申告するかで決まっていました。制度が勝手に決めるのではなくて。

国保料は「前年の所得」で決まる
まず土台の話から。
国民健康保険料は、大きく2つの部分でできています。前年の所得に応じてかかる「所得割」と、加入者ひとりあたり定額でかかる「均等割」。金融所得が効いてくるのは、所得割のほうです。
計算のもとになるのは、前年の総所得金額等から基礎控除43万円を引いた額。ここに自治体ごとの率をかけます。
さらに国保料は用途別に区分が分かれていて、2026年度からは「子ども・子育て支援納付金分」が新設されて4区分になりました。
| 区分 | 2026年度の上限額 |
|---|---|
| 医療分(基礎賦課額) | 67万円 |
| 後期高齢者支援金分 | 26万円 |
| 介護分(40〜64歳のみ) | 17万円 |
| 子ども・子育て支援納付金分(新設) | 3万円 |
| 合計 | 113万円 |
この表の金額は、1年間に払う保険料の上限です。
所得がどれだけ多くても、国保料が年113万円を超えることはありません。4つの区分をぜんぶ足した金額です。
上限があると聞くと、安心しそうになります。
ただ裏を返せば、そこに届くまでは所得に比例して増え続けるということでもあります。しかも、その上限そのものが毎年のように引き上げられている。医療分は前年度の66万円から67万円へ、合計でも109万円から113万円に上がりました。
配当を増やそうとしている身からすると、あまり喜べる話ではありません。
金融所得が入るかどうかは、確定申告するかで決まる
ここからが本題です。
株の配当や売却益は、国保料の計算に入るのか。
答えは「確定申告するかどうかで決まる」でした。
特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば、配当も譲渡益も税金は源泉徴収の時点で完結しています。だから確定申告をしないという選択ができる。これを申告不要制度といいます。
申告しなければ、国保料の算定に入りません。申告すれば、入ります。
それだけです。
つまり確定申告は、税金の手続きであると同時に、保険料の手続きでもあるわけですね。
ここを知らずに「還付が受けられるなら申告しよう」と動くと、戻ってきた税金より保険料の増加のほうが大きい、ということが起こります。
影響するのは保険料の額だけではありません。均等割には所得に応じた軽減制度がありますが、申告することで所得が増えて、その軽減が外れてしまうこともあります。
2024年度から「いいとこ取り」ができなくなった
この話には、知っておくべき制度変更があります。
かつては、所得税では確定申告をして還付を受けつつ、住民税では申告不要を選ぶ、という使い分けができました。住民税側で申告不要にしておけば、国保料にも反映されなかったんです。
ところが令和6年度、つまり令和5年分の所得から、所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶことはできなくなりました。今は所得税で申告すれば、住民税も自動的に同じ扱いになります。
ちなみにこれを調べているとき、古い情報を載せたままのサイトをいくつも見かけました。「住民税だけ申告不要にすればいい」と、今も堂々と書いてある。3年前の話なんですけどね。この手のページはなぜか検索の上位に居座り続けるので、けっこう厄介です。

モデルケースで計算してみる
では、実際どのくらい変わるのか。
国保料の率は自治体ごとにまるで違うので、前提を置いて計算します。配当が年240万円(月20万円)でほかに所得はなし。所得割の率は、医療分・後期支援分・介護分を合わせて合計12%と仮定。基礎控除は43万円。
(240万円 − 43万円)× 12% = 約23.6万円
申告しなければ、この23.6万円はかかりません。
申告書に配当を書くか書かないかだけで、年20万円以上変わる計算です。
月20万円の配当のうち、1か月分とすこしが保険料に消える計算になります。
もっとも、所得割の率は自治体によって10%前後から14%を超えるところまで幅があります。均等割の額も違う。上の数字はあくまで、影響の大きさをつかむための目安として見てください。実際の金額は、お住まいの自治体の料率で計算し直す必要があります。
それでも申告したほうがいい場合
「では申告しなければいいのか」というと、そう単純でもありません。
申告しないとできないことがあるからです。
ひとつは譲渡損失の繰越控除。損を出した年に申告しておくと、翌年以降3年間の利益と相殺できます。もうひとつは、複数の証券会社をまたぐ損益通算。A社の利益とB社の損を相殺するには申告が要ります。
どちらも損が出た年の話ですから、保険料が増える心配はあまりありません。
利益が出た年は申告しない。損が出た年は申告する。この使い分けが基本になりそうです。
【2026年5月成立】申告しなくても反映される制度ができた

ここまで「申告するかどうかで決まる」と書いてきました。
ところが2026年、その前提そのものを変える法律が成立しています。
健康保険法等の一部を改正する法律。2026年5月29日の成立です。確定申告していない上場株式等の配当や譲渡所得も、保険料の計算に反映させるという内容で、マイナンバーを使えば申告の有無にかかわらず把握できる、という理屈らしいですね。
ただ、ここは正確に押さえておく必要があります。
対象になっているのは後期高齢者医療制度、つまり75歳以上の人です。国民健康保険は今回の対象に含まれていません。反映されるのは保険料と、窓口負担の割合の両方。実施は2030年から2031年を目途とされていますが、時期はまだ確定していません。NISAは非課税なので対象外で、これは厚生労働省の資料にもはっきり書かれています。
会社員や公務員が入っている健康保険も、今回は対象外です。保険料が給与をもとに労使で折半されている仕組みなので、そこに金融所得を足すのは設計が難しいのだそうです。
それと、これは誤解しやすいのですが、税率が上がるわけではありません。配当にかかる約20%はそのままです。変わるのは、保険料と窓口負担を決めるときの「所得」の数え方だけです。
実際いくら増えるのか、厚労省の例で見る
制度の話が続いたので、金額で見ておきます。
厚生労働省の資料に、こういう夫婦の例が載っています。
- 夫(75歳以上)…年金230万円と、株の配当50万円
- 妻(75歳以上)…基礎年金83万円
妻の年金額まで書いてあるのは、窓口負担の割合を世帯で判定するからです。
今は、配当50万円を確定申告しなければ、この50万円はなかったものとして扱われます。制度が入ると、申告してもしなくても数えられます。
それで、どうなるか。
| 項目 | いま(申告しない場合) | 制度が入ったあと |
|---|---|---|
| 窓口負担 | 1割 | 2割 |
| 年間保険料 | 11万8,928円 | 16万9,978円 |
変わるのは2つです。
ひとつは病院の窓口。1割負担が2割負担になります。同じ治療を受けても、その場で払う金額が倍になるということです。
もうひとつが保険料。年に約11万9千円だったものが、約17万円になります。差は年5万1,050円です。
配当を50万円もらった結果、そのうち5万円が保険料に消える。ちょうど1割です。
そして配当50万円というのは、利回り4%なら1,250万円分。決して遠い金額ではありません。
つまり、いま国保に入っている人の保険料がすぐ変わるわけではありません。
それでも私が気になっているのは、「申告しなければ反映されない」という前提が崩れ始めたことです。
そして調べていくと、これは私の想像ではありませんでした。国民健康保険や介護保険への反映も、すでに検討の対象になっています。決まってはいませんが、検討されていないわけでもない。
FIRE後の30年、40年を見るなら、この流れは頭に入れておきたいところですね。
配当でもらうか、含み益のまま置いておくか
ここまで調べて、ひとつ気づいたことがあります。
保険料の話は、突きつめると「どういう形でお金を受け取るか」の話でした。
この改正を扱った解説をいくつか見ましたが、対策として決まって挙がるのが同じ考え方でした。配当や利息をやめて、分配金を出さないインデックスファンドに寄せれば、金融所得はそもそも発生しない。値上がり益は売るまで所得にならないので、保険料もかからない。
だから今回の流れは、高配当株の優位性が下がって、インデックス投資の優位性が上がるという整理になる、と。
これは、私のやっていることへの逆風です。
| 受け取り方 | 所得になるタイミング | 保険料への影響 |
|---|---|---|
| 配当・分配金 | 毎年 | 毎年かかる(申告した場合) |
| 値上がり益(売らない) | ならない | かからない |
| 値上がり益(売った年) | 売った年だけ | その年だけかかる |
並べてみると、配当がいちばん分が悪い。
毎年きっちり所得が立つからです。値上がり益なら、売る年をこちらで選べます。生活費の3年分をまとめて売れば、残りの2年は所得がゼロに近くなる。そういう調整ができる。
配当には、その調整ができません。
それでも配当を選んでいる理由
ではやめるのか、というと、やめません。
理由は、売る判断をしたくないからです。
含み益で持つやり方は、税と保険料の面では有利です。ただし、いつかは売らないと生活費になりません。そして売る判断は、暴落した年ほど重くなります。
2011年の震災のとき、私は狼狽売りをしています。相場が荒れているときに冷静な判断ができる人間だと、自分では思っていません。
配当は、その判断を要求してきません。持っているだけで振り込まれる。効率は落ちても、続けられるほうを選ぶ。これは損得だけの話ではなくて、自分の性格に合わせた設計です。
それに、私はインデックス投資もやめていません。
2018年からのインデックス積立と、2020年からの高配当株。この2本柱でやってきました。これまでは「攻めと守り」くらいのつもりで分けていたんですが、今回の話を知って、この組み合わせの意味が少し変わりました。
片方は毎年所得が立ち、もう片方は立たない。制度がどちらに転んでも、全部が同じ方向に不利になることはない、ということでもあります。
結果的にそうなっていただけで、狙ってやったわけではないのですが。
私がFIRE後にやろうと思っていること
ここまで調べて、自分の方針は4つに整理できました。
1つめは、NISAの枠を使い切ること。NISAの配当は非課税なので、そもそも所得になりません。保険料の計算にも入らない。税金と保険料の両方で効くという意味で、今思っている以上に価値のある枠だったわけです。
2つめは、特定口座の配当を申告しないこと。源泉徴収で完結させておきます。還付の誘惑に負けないためにも、ここは先に決めておきたい。
3つめは、損が出た年だけ申告を検討すること。繰越控除は使いたいので、そこは例外にします。
4つめは、取り崩す順番。これは今回調べるまで、まったく意識していませんでした。
NISAは制度の対象外です。だとすれば、74歳までは特定口座から、75歳からはNISAから取り崩すのが理屈に合います。後期高齢者になってから、所得が立つのを避けられるからです。
20年も先の話を今から決めても、そのころ制度がどうなっているかは分かりません。それでも、順番に意味があると知っておくだけで違うと思っています。
FIREの計画を立てるとき、私たちはつい「いくら貯まるか」「いくら配当が入るか」ばかり見てしまいます。
でも実際に手元に残るのは、税金と社会保険料を引いたあとの金額です。
1億円のロードマップも、そこまで含めて考えないと絵に描いた餅になりますね。
制度は変わります。今回の改正が、まさにそうでした。
今決めたこの4つも、5年後には書き直しているかもしれません。たぶん、それでいいのだと思っています。


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