この記事を書くとき、私はいつも決算短信を開きます。
売上高がいくらで、配当がいくらで、会社が来期をどう見ているか。あの独特な体裁のPDFです。
今回の銘柄は、その決算短信を作っている会社です。
TAKARA & COMPANY(証券コード:7921)。旧・宝印刷といったほうが通りがいいかもしれません。上場企業の決算短信、有価証券報告書、株主総会の招集通知。ああいった書類の制作を請け負っています。
私の簿価利回りは9.65%。保有している94銘柄のなかでも、上位に入る数字です。
そして今回、配当方針が変わりました。
基本データ
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 証券コード | 7921 |
| 企業名 | 株式会社TAKARA & COMPANY |
| 業種 | その他製品(ディスクロージャー・通訳翻訳) |
| 株価 | 4,275円 |
| 時価総額 | 約562億円 |
| 配当利回り(予想) | 4.21%(180円) |
| PER(会社予想) | 15.77倍 |
| PBR(実績) | 1.70倍 |
| EPS(会社予想) | 271.16円 |
| BPS(実績) | 2,512.12円 |
| 自己資本比率 | 76.2% |
| 決算期 | 5月 |
| 私の平均取得単価 | 1,865円(簿価利回り9.65%) |
※決算期が5月なので、他の記事と期の表記がずれます。「26/5期」は2025年6月から2026年5月までです。
どんな会社か|利益の9割は「開示書類」から
事業は2つに分かれています。
| セグメント | 売上高 | 売上比率 | セグメント利益 |
|---|---|---|---|
| ディスクロージャー関連 | 228.5億円 | 73.3% | 37.9億円(89%) |
| 通訳・翻訳 | 83.0億円 | 26.7% | 4.7億円(11%) |
※2026年5月期。利益の構成比は報告セグメント計に対する割合です。
売上の7割、利益の9割がディスクロージャー関連事業です。
中身をもう少し分けると、金融商品取引法関連(有価証券報告書など)が95.9億円、会社法関連(招集通知など)が68.2億円、IR関連が48.6億円。
つまり、上場企業が法律で作らされる書類が、この会社の飯の種です。
ここが地味に強い。
景気が悪くても、上場している限り有価証券報告書は出さないといけません。株主総会も開かないといけない。需要が景気で消えないんですね。しかも開示のルールは年々細かくなっていて、企業が自前で作るのは難しくなる一方です。
もうひとつの通訳・翻訳事業は、サイマル・インターナショナルなどを傘下に持っています。売上の4分の1を占めますが、利益率は4.9%と低め。ディスクロージャー側の16.6%とは、だいぶ差があります。
配当の推移|11年で3.6倍、減配なし

50円から180円へ。11年で3.6倍です。
一度も減っていません。
グラフに色の違う年が2つあります。赤が2022年5月期の創業70周年記念配当4円、黄色が2025年5月期の特別配当30円です。どちらも決算短信の注記に内訳が書いてあります。
ここで注意したいのが、2025年5月期と2026年5月期です。
| 期 | 合計 | うち普通配当 | うち特別配当 |
|---|---|---|---|
| 2025年5月期 | 120円 | 90円 | 30円 |
| 2026年5月期 | 120円 | 120円 | — |
合計は同じ120円で、横ばいに見えます。
でも中身は違っていて、普通配当が90円から120円へ33%増えました。一時的な特別配当30円が消えた分を、普通配当が埋めて余りある。合計だけ見ていると読み違えるところです。
【2026年7月】配当方針が変わった
今回いちばん大きいのが、ここです。
2026年7月8日、決算発表と同じ日に「配当方針の変更」が公表されました。
| 項目 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 基本方針 | 安定配当 | フレキシブルな株主還元 |
| 連結配当性向(目安) | 50%程度 | 50%〜100% |
| DOE(目安) | 設定なし | 7.5%以上 |
DOEという言葉が出てきました。株主資本配当率といって、配当の額を「利益」ではなく「株主資本」に対して決めるやり方です。
何がありがたいかというと、利益が落ちた年も配当が下がりにくいことです。
配当性向だけを基準にしている会社は、利益が半分になれば配当も半分になり得ます。株主資本は1年で半分になったりしないので、DOEを基準にすると配当が安定します。受け取る側からすると、これは大きい。
会社が挙げている理由も、はっきりしています。内部留保が積み上がるのを抑えてROEを上げたい、と。
そして新方針にもとづく2027年5月期の配当予想が、180円です。
前期の120円から50%の増配。会社の計算では、配当性向66.4%、DOEは7.6%になる見込みだそうです。
ちなみに同じ日に、2023年5月期に廃止していた株主優待の再開も発表されています。内容はまだ決まっていません。
業績の推移|11年で売上2.3倍、利益率は10%台から14%へ

売上高は147億円から342億円(今期予想)へ、11年で2.3倍。
目を引くのは下の折れ線です。営業利益率が9%台から14%台へ切り上がっています。
段差がついたのは2022年5月期でした。10.9%から14.1%へ、一段跳ねている。ここから水準が変わったまま戻っていません。
印刷会社という言葉から受ける印象より、ずっと利益率の高い商売です。紙を刷るより、システムとノウハウを売っていると考えたほうが実態に近いのだと思います。

ROEは7%台から13%台のあいだ。合格ラインとされる8%を、11年のうち8年で超えています。
飛び抜けて高くはありません。ただ自己資本比率が76.2%もある会社で、この水準を出しているのは悪くない。借金でROEを持ち上げているわけではない、ということです。
EPSと配当性向|方針変更で一段上がった

配当性向の線が、はっきり2つの時期に分かれています。
2016年から2018年ごろは50%前後。そこから2022年の33.9%まで下がり、また上がって今期は66.4%です。
下がった時期は、利益の伸びに配当が追いついていなかった時期です。EPSが97円から231円へ伸びるあいだ、配当は50円から80円までしか増えなかった。会社に利益が貯まっていったわけですね。
今回の方針変更は、その貯まった分を吐き出す方向への転換だと読めます。
66.4%という配当性向は高い部類ですが、新方針の「50%〜100%」の範囲には収まっています。
株価の動向|今年、3割下げてから戻した

2016年から2021年までの6年間、株価は1,500円から2,000円のあいだで動いていませんでした。
私の取得単価1,865円は、この横ばい期の水準です。
2022年から上がり始めて、2025年12月には4,710円まで来ました。ところが今年に入って崩れます。6月には2,783円。年初来高値4,790円から4割超の下落です。
そして7月8日の決算と配当方針の変更で、また戻しました。今は4,275円。安値から1.5倍です。
1年のうちにこれだけ動く株なんですね。時価総額562億円と小さいので、値動きは荒くなります。
配当利回りの推移と、今の位置

このグラフは、これまで書いてきた銘柄と形が違います。
現在の利回りは4.21%。過去10年の平均が2.86%で、10年のどの年よりも高い水準にいます。
これまでの記事では「利回りが過去平均を下回っている」と書くことが多かったので、自分でも意外でした。
理由は2つの掛け算です。配当が5割増えたのに、株価が高値から下げたまま戻りきっていない。分子が増えて分母が減れば、利回りは跳ねます。
高配当株のスクリーニングに、はっきり引っかかる水準です。
直近の決算|純利益は減ったが、本業は伸びている
2026年7月8日に、2026年5月期の本決算が発表されました。
| 項目 | 金額 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 311.5億円 | +5.0% |
| 営業利益 | 44.2億円 | +9.2% |
| 経常利益 | 45.8億円 | +8.1% |
| 純利益 | 33.8億円 | △17.0% |
純利益だけがマイナスです。
ここは誤解しやすいところなので、短信を確認しました。原因は前期にあった固定資産売却益17.9億円です。
2025年5月期は、この一時的な利益で純利益が40.8億円まで膨らんでいました。その反動で、今期は減ったように見えている。本業を表す営業利益は、9.2%増えています。
来期の会社予想は、売上342億円(+9.8%)、営業利益49億円(+10.9%)。増収増益の見通しです。
私がこの株を持ち続ける理由
簿価利回りが9.65%あるから
1,865円で買って、来期は180円を受け取ります。
三菱UFJやJTのように、もっと高い簿価利回りの銘柄もあります。それでも9%台。配当で月20万円という目標から見て、これを手放す理由がありません。
需要が景気で消えない商売だから
上場企業は、業績が悪くても開示書類を作らなければなりません。
景気敏感な銘柄を多く持っているので、こういう不景気でも仕事がなくならない会社は、ポートフォリオの重しとして意味があります。11年で1度も赤字がないのも、その裏返しだと思っています。
配当方針がDOEに変わったから
これが今回いちばんの変化です。
利益連動だけの会社は、業績が崩れた年に配当も崩れます。株主資本を基準にしたDOEが入ったことで、その心配が小さくなりました。FIRE後に配当で生活する設計から見ると、金額の読みやすさは利回りの高さと同じくらい大事です。
リスクと注意点
気になるところを4つ書いておきます。
1つめは、配当性向66.4%という高さです。
利益の3分の2を配ることになります。新方針の範囲内とはいえ、余裕が減るのは確かです。事業が想定どおり伸びなければ、DOEを守るために無理をする形になりかねません。
2つめは、AIによる翻訳の代替です。
売上の4分の1を占める通訳・翻訳事業は、AIの影響を正面から受ける領域です。会社自身も短信でAI翻訳への取り組みに触れていますが、追い風なのか逆風なのかは、まだ分かりません。
3つめは、上場企業数という天井です。
顧客は上場企業に限られます。日本の上場企業がこれから大きく増えるとは考えにくいので、顧客の数では伸びしろが限られる。1社あたりの単価を上げるか、開示のルールが複雑になるか。伸びる道はそう多くありません。
4つめは、値動きの荒さです。
今年だけで4,790円から2,783円まで、4割超も下げています。時価総額562億円の小型株なので、こういう動きは今後もあると思っておいたほうがいい。三井物産のような大型株と同じ感覚で持つと、驚くことになります。
私の考え|売らない。買い増しは検討する
売りません。簿価利回り9.65%を捨てる理由がありません。
そして今回は、めずらしく買い増しも検討します。
私が高配当株に求める利回りは4%です。今の4.21%は、すでにその線を超えています。配当180円で4%になる株価は4,500円なので、今の4,275円は買える範囲ということになる。
直近に書いた2本は、どちらも「今の株価では4%に届かない」という結論でした。基準を満たした状態で書くのは、久しぶりです。
ただし、慌てはしません。
配当方針が変わった直後なので、実際に180円が出るのを一度は見ておきたい。中間配当は2027年1月ごろです。それを確認してからでも遅くないと思っています。
まとめ
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 私の簿価利回り(9.65%) | ◎(保有94銘柄で9位) |
| 現在の利回り(4.21%) | ◎(過去10年のどの年より高い) |
| 配当実績(11年で3.6倍・減配なし) | ◎ |
| 還元方針(DOE7.5%以上を新設) | ◎(利益が落ちても下がりにくい) |
| 収益力(11年赤字なし・営業利益率14%台) | ◎ |
| 財務(自己資本比率76.2%) | ◎ |
| 配当性向(66.4%) | △(余裕は減った) |
| 株価水準(PER15.77倍・PBR1.70倍) | ○(PERレンジ8.18〜34.21倍の下半分) |
| ポートフォリオでの役割 | 不景気でも仕事が消えない重し |
この記事を書きながら、少しおかしな気持ちになりました。
私は毎回、決算短信を開いて数字を拾い、記事にしています。その決算短信を作っているのが、この会社です。
今回もそうでした。この会社が作った書類を読んで、この会社の記事を書いている。
上場企業が開示を続けるかぎり、この会社には仕事があります。そして私のような個人投資家がその開示を読むかぎり、この仕組みは回り続ける。
自分が受け取っている配当の出どころを、これほどはっきり実感できる銘柄も、そう多くありません。
・本記事の株価・指標・業績・配当の数字は、2026年8月21日時点のものです。株価は同日の終値、業績と配当は直近の決算実績と会社予想に基づいています。
・決算期は5月です。「2026年5月期」は2025年6月1日から2026年5月31日までを指します。
・直近の本決算は2026年7月8日に発表済みで、同日に配当方針の変更と株主優待制度の再開が公表されています。最新の数字は必ずご自身でご確認ください。
・2027年5月期の予想配当180円は、変更後の配当方針(配当性向50〜100%、DOE7.5%以上)にもとづく会社予想であり、確定した金額ではありません。
・2025年5月期の配当120円には特別配当30円が、2022年5月期の58円には創業70周年記念配当4円が含まれています。記念配当・特別配当は継続が約束されたものではありません。
・2026年5月期の純利益が前期比△17.0%となっているのは、前期に固定資産売却益17.9億円という一時的な利益があったためです。営業利益は9.2%増えています。
・株主優待制度は再開が決まっただけで、内容・基準日はまだ公表されていません。
・本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。私自身の保有銘柄について、投資判断の記録として書いたものです。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。

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