前回、「1億円あっても使えない病」という記事を書きました。お金を貯める力と使う力は別物だ、という話です。今日はその双子のような、もうひとつの厄介な病気について書きます。
「あと1年だけ働けば」症候群。FIREを目指す人の多くが、ゴール目前でこれにかかります。そして私は、自分がかなりの重症になる予感がしています。

目標は55歳でのFIRE。でも、その55歳が来たとき、私は本当に辞表を出せるのか。今日は、辞める勇気について正直に考えます。
「あと1年」は、なぜこんなに魅力的なのか

55歳の春を想像してみます。退職の手続きを進めようとした私の頭に、こんな声が聞こえてきます。
- 「あと1年働けば、退職金がもう少し増えるぞ」
- 「あと1年で、資産があと数百万円積み上がる」
- 「あと1年分の給料があれば、老後がもっと安心だ」
どれも正論です。反論できません。ここが「あと1年症候群」の恐ろしいところで、その理屈はいつも正しいんです。1年働けば、資産は確実に増える。損はしない。だから断りづらい。
しかも公務員という仕事は安定しています。辞めるのは自分の意志ひとつ。誰かにクビにされるわけではないから、「もう1年くらい、まあいいか」がいくらでも延長できてしまう。この「まあいいか」が、5年後にどうなっているか。数字にしてみました。
「あと1年」を5回繰り返すと、5年が消える

上のグラフは、1億円に到達した55歳から「あと1年」を繰り返した場合の資産の試算です。運用しながら働き続ければ、60歳で1.4億円ほどになります。5年で4,400万円の上乗せ。数字だけ見れば、素晴らしい成果です。
でも、この裏で失っているものがあります。55歳から60歳までの、5年間そのものです。
この5年は、私にとってただの5年ではありません。体力があって、気力もあって、ゴルフを思いきり楽しめる5年。親と過ごせる時間が残っている5年。人生で二度と戻ってこない、いちばん脂の乗った5年です。それを4,400万円と引き換えにするのか。こう問い直すと、「あと1年」の甘い声が、急に高くつくものに聞こえてきます。
お金は取り戻せる。時間は取り戻せない

この病気の正体は、たぶん「お金と時間の錯覚」です。お金は目に見えて、数えられて、増えていくのが分かる。だから安心する。一方で、時間が減っていくことは、グラフにも通帳にも出てきません。見えないから、失っている実感がわかない。
でも冷静に考えれば、順番は逆です。お金は、働けばまた稼げます。FIRE後だって、ブログでも何でも、少しは稼げる。でも55歳の1年は、どれだけお金を積んでも買い戻せません。
なぜ55歳なのかを書いた記事でも触れましたが、私が定年まで待たずに辞めたいのは、まさにこの「時間の有限さ」に気づいたからでした。それなのに、ゴール目前で「あと1年」を選んでしまったら、55歳を目指した意味そのものが消えてしまいます。
だから「辞める条件」を先に決めておく

「あと1年症候群」に、気合いや根性で勝てるとは思っていません。その場になれば、正論の誘惑に負ける自信があります。だから、使えない病のときと同じ作戦を使います。元気なうちに、辞める条件を先に決めてしまうんです。
私が決めている辞める条件は、この2つです。
- 純資産が1億円に届いていること(お金の条件)
- 配当の手取りが目標に近づいていること(配当月20万円の設計図で追いかけている数字)
この2つを満たしたら、それ以上は粘らない。退職金があと少し増えても、資産があと数百万積み上がっても、条件を満たした時点で辞める。増えた分は「もらえたら嬉しいおまけ」であって、5年を差し出す理由にはしない。そう先に決めておけば、55歳の春に甘い声が聞こえても、「条件は満たした。予定どおり辞める」と言い返せます。
決めた条件は、このブログに書いて公開してしまうのがいちばん効きます。毎月の資産公開と同じで、宣言してしまえば後には引きにくい。この記事自体が、未来の私への予防接種です。
もちろん、逆のパターンもある

ここまで「早く辞めよう」という話をしてきましたが、公平のために反対側も書いておきます。
条件を満たしていないのに、勢いで早く辞めてしまうのも危険です。FIRE初年度は社会保険や住民税で意外とお金が出ていくので、資産が中途半端なまま飛び出すと、今度は「お金が足りない不安」に苦しむことになります。
だから大事なのは「早く辞める」ことではなく、「決めた条件で辞める」こと。早すぎず、遅すぎず。あらかじめ引いた線のところで、感情に流されずに止まる。それが、あと1年症候群にも、勇み足にも負けない方法だと思っています。
まとめ:いちばん難しいのは、辞めることかもしれない

- 「あと1年」の理屈はいつも正しい。だから断りにくく、延長が止まらない
- 1年で数百万円は増える。でも55歳の1年は、お金では買い戻せない
- 対策は「辞める条件」を元気なうちに決めて、公開してしまうこと
- 早すぎもせず、決めた線でぴたりと止まる
資産を貯めるのは、意外と得意でした。難しいのは、そのあとです。貯めたお金を使うこと、そして安定した仕事を、自分の意志で辞めること。FIREの最終関門は、数字ではなく、いつも自分の心のほうにあるようです。
55歳まで、まだ時間があります。その日、甘い声に負けずに辞表を出せるように。今のうちから、心の準備運動をしておきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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