高配当株として買った記憶が、あまりありません。
伊藤忠商事(証券コード:8001)。総合商社の一角で、私が持っているなかでは値上がりも配当の伸びも上位に入る1本です。
この会社の利回りは、昔から高くありませんでした。
過去9年の平均で2.68%。INPEXやサンゲツのように4%、5%と表示される銘柄とは、そもそも見え方が違います。
それでも私の簿価利回りは6.23%です。
平均取得単価706円に対して、いまの配当が44円。株価は2,078円まで上がって約2.9倍になりました。買ったときの利回りは3%もなかったはずなので、この6.23%は増配だけで積み上がった数字ということになります。
利回りの低い株を持ち続けると、どうなるか。その答え合わせみたいな記事になりました。

基本データ
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 証券コード | 8001 |
| 企業名 | 伊藤忠商事株式会社 |
| 業種 | 卸売業(総合商社) |
| 株価 | 2,078円 |
| 時価総額 | 約16兆4,670億円 |
| 配当利回り(予想) | 2.12%(44円) |
| PER(会社予想) | 15.29倍 |
| PBR(実績) | 2.15倍 |
| EPS(予想) | 135.90円 |
| BPS(実績) | 968.22円 |
| 自己資本比率 | 39.4% |
| 決算期 | 3月 |
| 私の平均取得単価 | 706円(簿価利回り6.23%) |
※株価・配当・EPSは、2026年1月1日の株式分割(1株→5株)に合わせた数字です。この記事のグラフもすべて分割調整後でそろえています。
どんな会社か|売上の3分の1が「食べもの」
総合商社を説明するのは、いつも難しいです。
資源も食料も繊維も機械も扱っていて、一言でまとめられない。伊藤忠は事業を8つの「カンパニー」に分けているのですが、その内訳を見て、私は少し意外に感じました。
| セグメント | 売上比率 | 主な中身 |
|---|---|---|
| 食料 | 35% | 食料原料の供給から製造・流通・小売まで |
| エネルギー・化学品 | 21% | 原油・天然ガス・化学品 |
| 住生活 | 10% | 生活資材、住宅の開発・販売、物流 |
| 機械 | 10% | プラント、インフラ、航空機、船舶、自動車、建機 |
| 金属 | 8% | 鉱物資源の開発と供給 |
| 情報・金融 | 8% | ICT、BPOなどのサービス |
| 繊維 | 5% | ファッションからハイテク資材まで |
| 第8カンパニー | 4% | 生活消費分野。新しい客先やビジネスの開拓 |
※2026年3月期。四捨五入のため合計は100%になりません。

いちばん大きいのが食料で、35%。
商社といえば資源、というイメージで見ていたので、これは違いました。鉱物を扱う金属カンパニーは8%しかありません。
資源の比率が低いということは、資源価格が下がったときのダメージも小さいということです。三井物産のように資源で利益が3倍に振れる商社とは、性格がかなり違います。
伊藤忠が掲げている経営方針も「利は川下にあり」。
川上の資源開発ではなく、川下の消費者に近いところで稼ぐ、という宣言ですね。売上の内訳が、その宣言どおりになっています。
配当の推移|10年で4倍、一度も減っていない

このグラフが、この記事でいちばん見てほしいものです。11円、14円、16.6円、17円、17.6円、22円、28円、32円、40円、42円、そして今期予想が44円。
10年で4倍。しかも一度も減っていません。
コロナで多くの会社が配当を減らした2021年3月期も、伊藤忠は17円から17.6円へ増やしています。同じ年に配当を半分にした会社を私も持っているので、この差はよく覚えています。
段差がないんですよね。階段を1段ずつ上がるように増えていて、踊り場はあっても下りがない。高配当株のグラフを何本も作ってきましたが、ここまできれいな形はあまり見ません。
株主還元方針|累進配当と、総還元性向64%
グラフがきれいなのには、理由があります。
| 方針 | 内容 |
|---|---|
| 累進配当 | 減配しない。前の年の配当を下回らせない |
| 総還元性向 40%以上 | 配当と自社株買いの合計を、利益の40%以上にする |
| 26年度は総還元性向 64% | 1株配当44円以上+自己株式取得3,000億円以上(会社公表) |
| 自社株買い 上限3,000億円(2026年8月3日決議) | 上限1億9,000万株。発行済株式(自己株式を除く)の約2.7%。取得期間は2026年8月4日〜2027年1月29日 |
「累進配当」というのは、前の年より配当を減らさないという約束です。
業績が落ちても据え置く。だから10年のグラフに下りがないわけですね。三菱HCキャピタルや三井物産と同じ考え方です。
ただし、同じ累進配当でも踏み込み方には差があります。三井物産は「減らさない」に加えて年間の下限配当額まで公表していますが、伊藤忠にその金額の明示はありません。約束の強さでいえば、あちらが一段上ですね。
目を引いたのは、もうひとつのほうでした。
会社が「40%以上」と言っている総還元性向を、今期は64%まで引き上げると公表しています。稼いだ利益の3分の2近くを、配当と自社株買いで株主に返す計算になります。
約束の1.6倍を出しにいく、ということです。
3,000億円の自社株買いに、変わった仕掛けがありました
2026年8月3日に出た開示を読んでいて、手が止まった箇所があります。3,000億円の枠のうち1,500億円を、市場ではなく「公開買付け」で買うと書いてあったんです。
相手は決まっています。三井住友海上、あいおいニッセイ同和、損害保険ジャパン、東京海上日動。損害保険会社4社です。この4社が持っていた伊藤忠株のうち8,273万株(発行済の1.18%)を、会社が直接買い取ります。
買付価格は1株1,813円。決議の前営業日の終値が2,014円でしたから、市場価格から10%引きということになります。
会社の開示には、安く買う理由もはっきり書いてありました。応募しないで株を持ち続ける株主の利益を尊重するため、会社から出ていくお金をできるだけ抑えたい、と。
持っている側からすると、ありがたい話です。
同じ1,500億円でも、2,014円で買えば約7,448万株、1,813円なら約8,274万株。1割安く買えるぶん、市場から引き上げられる株数が増えます。1株あたりの利益と配当は、そのぶん押し上がることになりますよね。
ひとつ、書いておかなければならないことがあります。
この開示に、買い戻した株を消却するという記載はありませんでした。稲畑産業は「取得した全数を消却する」と日付まで決めて出していたので、そこは一段弱いと感じます。金庫に置いたままだと、いつか市場に戻る可能性が残るからです。
業績の推移|利益の水準が、5年で倍になった

三井物産の記事にも書いたのですが、総合商社は売上高で語りません。取引の形によって売上の見え方が大きく変わってしまうので、純利益で見るのが普通です。
伊藤忠を見ていると、その理由がよく分かります。
2019年3月期に収益が5.5兆円から11.6兆円へ跳ねているのですが、同じ年の営業利益は3,169億円から3,615億円。伸び方がまったく釣り合っていません。事業が1年で倍になったわけではないということですね。
そこで、このグラフも純利益で並べました。
純利益は2021年3月期の4,014億円から、2026年3月期は9,003億円へ。5年で2.2倍です。今期の会社予想は9,500億円で、さらに上を見ています。
大きく崩れた年が、11年で1回しかありません。
コロナの2021年3月期だけです。2023年3月期も8,203億円から8,005億円へ下がってはいるのですが、2%ほどの差でしかありません。
三井物産は2021年3月期の3,355億円から2023年3月期の1兆1,306億円まで、2年で3倍以上に振れていました。同じ商社でも、揺れ方がずいぶん違います。

ROEのグラフは、あまり見ない形をしています。
11年間、一度も12%を下回っていません。合格ラインとされる8%の線が、はるか下にあります。コロナで利益が落ちた2021年3月期でも12.10%を確保していました。
自己資本比率39.4%という数字だけ見ると、財務が厚い会社には見えません。ただ商社は自己資本を効かせて稼ぐ商売なので、ここは高ければいいというものでもないのだろうと考えています。
EPSと配当性向|3割で止めている

EPSは45円から136円(今期予想)へ、3倍になりました。
配当が4倍ですから、利益の伸びより配当の伸びのほうが速いということになります。だから配当性向も、24.6%から32.4%へじわじわ上がってきました。
それでもまだ3割です。
配当性向が7割、8割まで来ている会社だと、次の増配は利益が増えないと出せません。3割で止まっているということは、まだ増やす余地が残っているということになります。
なお、会社が掲げている「40%以上」は配当性向ではなく総還元性向です。配当だけの目標は出していません。自社株買いを含めて4割、という設計になっているので、配当性向が3割前後で落ち着いているのは方針どおりの姿だと考えられます。
株価の動向|706円が2,078円になった

オレンジの点線が、私の平均取得単価706円です。
グラフの下のほうを走っているのが分かると思います。株価が線を明確に超えたのは2022年ごろで、そこからはほぼ一本調子で上がっています。
2026年2月には2,270円をつけました。
そのあと6月に1,802円まで落ちて、いまは2,078円。年初来で見ると2割以上の幅で動いているので、静かな株というわけでもありません。
ちなみにこのグラフの数字は、2026年1月の株式分割に合わせて過去にさかのぼって5分の1にしてあります。分割前の株価で見ると1万円を超えていた時期があるので、当時の記憶がある方は少し違和感があるかもしれません。
配当利回りの推移と、いまの位置

現在の利回りは2.12%です。
過去9年の平均が2.68%なので、平均を下回っています。ただ、このグラフで注目したいのはそこではありません。
10年のうち、3%を超えたのは2回だけです。
2018年の3.75%と2019年の3.27%。それ以外はずっと2%台で、直近3年は2%ちょうどのあたりに張りついています。配当は毎年増えているのに利回りが上がらないのは、株価がそれ以上のスピードで上がってきたからですね。
高配当株のスクリーニングでは、この銘柄はずっと引っかかりません。
それでも私の簿価利回りは6.23%あります。表示されている利回りと、実際に受け取っている利回りが、これだけ離れることもあるということです。
直近の決算|増収増益で、自社株買いも同じ日に
2026年8月3日に、2027年3月期の第1四半期決算が発表されました。
収益3兆8,759億円(前年同期比8.9%増)、営業利益2,055億円(同20.3%増)。増収増益です。
3,000億円の自社株買いが公表されたのも、同じ日でした。
決算と還元策を同じ日にぶつけてきたわけですね。株価は8月5日の1,978円から8月12日の2,096円まで、1週間で6%上がりました。翌13日は2,078円まで戻していて、この記事の数字はすべてその終値で計算しています。
私がこの株を持ち続ける理由
増配だけで簿価利回りが6%を超えたから
706円で買った株から、いま44円を受け取っています。
買った当時の配当は22円前後だったはずなので、受け取る金額が持っているだけで倍になった計算です。株価が上がったから利回りが上がった、という話ではありません。会社が配当を増やしたから上がったんです。
これは売って手に入るものではないんですよね。
累進配当だから、悪い年の心配をしなくていい
一度減配された会社を持っていると、これはこれで気が楽なところがあります。減る会社だと分かっているので、期待の上限が最初から低いんです。
伊藤忠は逆で、減らさないと言っているぶん、悪い年が来たときの見通しが立てやすい。どちらが良いというより、性格の違う株を両方持っていることに意味があるのだろうと思っています。
資源に振り回されない商社だから
金属カンパニーは売上の8%です。
私はすでにINPEXとENEOSという資源系を持っているので、ポートフォリオのなかで伊藤忠に期待しているのは「揺れないこと」のほうです。11年間ROEが12%を割っていないという実績は、その期待に応えています。
リスクと注意点
気になるところも書いておきます。ひとつはPBR2.15倍という株価の水準です。
三菱商事1.85倍、三井物産1.55倍、丸紅1.83倍。伊藤忠は商社のなかでいちばん高く評価されています。中身が良いから買われているのですが、良いことがすでに値段に入っているとも言えます。
PERのほうは15.29倍で、同業とほぼ同じ水準です。
ただ伊藤忠自身の過去のレンジは3.6倍から17.9倍。いまは上限に近い場所にいます。
もうひとつは、自社株買いに消却の約束がないことです。
3,000億円という金額は立派なのですが、買った株をどうするかは今回の開示に書かれていません。消却されるまでは、1株あたりの価値が本当に上がったとは言い切れないと考えています。
そして、累進配当も絶対ではありません。
あくまで会社の方針です。方針は変わることがあります。
私の考え|売らない。買い増しは、たぶんできない

売りません。簿価利回り6.23%を手放す理由がないからです。
問題は買い増しのほうで、こちらはかなり難しいと感じています。
私が高配当株に求める利回りは4%です。配当44円で逆算すると株価1,100円あたりになりますが、この銘柄が4%になったことは過去10年で一度もありません。いちばん高かった2018年でも3.75%です。
つまり、私の基準では永久に買えない株ということになります。
ここは自分でもうまく整理できていません。増配で簿価利回りが6%を超えた実績を目の前で見ているのに、その同じ会社を「利回りが低いから」という理由で買い増さない。配当で月20万円を作るという目標から考えると、入口の利回りだけで判断するのは正しくないのかもしれません。
答えは、まだ出ていません。
まとめ
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 私の簿価利回り(6.23%) | ◎ |
| 現在の利回り(2.12%) | ×(過去9年平均2.68%を下回る) |
| 配当実績(10年で4倍・減配なし) | ◎ |
| 還元方針(累進配当・総還元40%以上、今期64%) | ◎(ただし消却の約束はない) |
| 収益力(11年間ROE12%以上・純利益は5年で2.2倍) | ◎ |
| 事業の安定(資源は売上の8%、食料が35%) | ○ |
| 財務(自己資本比率39.4%) | ○ |
| 株価水準(PER15.29倍・PBR2.15倍) | ×(商社のなかでいちばん高い) |
| ポートフォリオでの役割 | 揺れない側の柱。増配だけで育った古株 |
この記事を書いていて、ひとつ思い当たったことがあります。私はこれまで、利回りの高い順に銘柄を探してきました。
でも簿価利回りが6%を超えている自分の持ち株を並べてみると、買ったときから高利回りだったものと、伊藤忠のように増配で後から届いたものの2種類があります。後者のほうが、たぶん時間はかかっています。
そして後者は、買った瞬間には見分けがつきません。
10年後にどの会社が配当を4倍にしているかなんて、いま画面を見ても分からないですよね。分からないから、そこそこの会社をそこそこの値段で買って、あとは持っているしかない。
そう考えると、私がやってきたことの半分くらいは運だったことになります。
・本記事の株価・指標・業績・配当の数字は、2026年8月13日時点のものです。株価は同日の終値、業績と配当は直近の決算実績と会社予想に基づいています。
・株価・配当・EPSは2026年1月1日の株式分割(1株→5株)に合わせて調整した数字です。分割前の資料と比べる際はご注意ください。
・直近の四半期決算は2026年8月3日に発表済みで、次回は11月上旬の予定です。最新の数字は必ずご自身でご確認ください。
・累進配当および総還元性向40%以上は会社の方針であり、将来の配当を保証するものではありません。方針が変更されれば減配の可能性があります。
・自己株式の取得(上限3,000億円・1億9,000万株、2026年8月4日〜2027年1月29日)は上限であり、実際の取得額が上限に達しない場合があります。また、取得した自己株式を消却するという記載は当該開示にはありません。
・本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。私自身の保有銘柄について、投資判断の記録として書いたものです。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。


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