私の保有株のなかで、いちばん「買値が効いている」1本です。
ニチアス(証券コード:5393)。断熱材とシール材をつくり、プラントの工事まで手がける会社です。
平均取得単価は944円。今の株価は3,440円なので、買値の約3.6倍になりました。
ところが、今の配当利回りは1.89%しかありません。高配当株のブログで紹介する数字ではないですよね。
それでも私の簿価利回りは6.89%あります。
株価が上がると利回りが下がる。当たり前の話なのですが、この銘柄はその落差がいちばん大きい。今日はその中身を見ていきます。

基本データ
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 証券コード | 5393 |
| 企業名 | ニチアス株式会社 |
| 業種 | ガラス・土石製品(断熱・シール材とプラント工事) |
| 株価 | 3,440円 |
| 時価総額 | 約6,570億円 |
| 配当利回り(予想) | 1.89%(65円) |
| PER(会社予想) | 18.52倍 |
| PBR(実績) | 2.67倍 |
| EPS(予想) | 185.71円 |
| BPS(実績) | 1,290.05円 |
| 自己資本比率 | 76.7% |
| 決算期 | 3月 |
| 私の平均取得単価 | 944円(簿価利回り6.89%) |
株価・配当・EPS・BPSは、あとで触れる株式分割のあとの数字にそろえています。
やっていることは、熱を止めること
社名を聞いてもピンとこない方が多いと思います。私も買うまで知りませんでした。
ひとことで言うと、熱を通さない・漏らさないための材料をつくる会社です。工場の配管に巻く断熱材、機械のすき間をふさぐシール材、建物の耐火材。表に出るものではありませんが、無いと工場が動きません。
事業は5つに分かれています。
| セグメント | 売上比率 | 主な中身 |
|---|---|---|
| プラント向け工事・販売 | 32% | 発電所や化学プラントの配管・設備まわりの断熱工事と資材 |
| 工業製品 | 21% | 工場や設備で使う断熱材・シール材 |
| 自動車部品 | 20% | 自動車向けの断熱・シール部品 |
| 高機能製品 | 16% | 半導体製造装置などに使われる高機能材 |
| 建材 | 11% | 建物用の断熱材・耐火材 |
※2026年3月期の売上高ベース。
表を作ってみて意外だったのは、いちばん大きいのが「工事」だったことです。
材料を売る会社だと思っていたら、売上の3割はプラントに人を出して施工する仕事でした。作って売るだけでなく、現場で取り付けて、あとから点検して交換する。ビル空調の計装工事をやっている日本電技と似た構造ですね。
利益で見ると景色が変わります。2026年3月期の営業利益は、プラント向け工事が120億円でトップ。次が工業製品の101億円でした。

配当は10年で3.75倍。しかも一度も減っていない

この記事を書こうと思った理由が、このグラフです。
2017年3月期の17.33円から、2027年3月期予想の65円へ。10年で3.75倍、その間ずっと増配です。
しかも会社の説明によれば、増配は2009年から17年続いています。リーマンショックの直後から一度も減らしていない計算になります。
直近の伸びが特に急です。2025年3月期の36円が、2026年3月期に54.67円(+52%)、今期は65円(+19%)の予想。2年で1.8倍になりました。
配当を増やしている会社はほかにもありますが、三菱HCキャピタルの26期連続増配のような「毎年ちょっとずつ」とは違って、この2年は角度が変わっています。理由は還元方針にありました。
還元方針はDOE5%以上と、累進配当
| 方針 | 内容 |
|---|---|
| DOE 5.0%以上(2026年3月期から) | 株主資本に対して5%以上を配当する。利益ではなく資本が基準 |
| 累進配当(現在の中期経営計画の期間中) | 減配せず、維持か増配を続ける |
| 自社株買い(2年連続で約80億円) | 2025年3月期・2026年3月期とも約80億円を実施 |
ポイントはDOEが利益ではなく株主資本を基準にしていることです。
配当性向だと、利益が落ちた年は配当も落ちます。DOEは資本に対する割合なので、利益が一時的にへこんでも配当は下がりにくい。稲畑産業がDOE4〜4.5%を新設したときにも書きましたが、受け取る側からするとこの違いは大きいです。
2026年3月期に配当が5割増えたのは、このDOE5%以上が効いた結果でした。
累進配当のほうは「現在の中期経営計画の期間中」という条件が付いています。計画が終われば約束も切れる。ここは頭に入れておく必要があります。
営業利益率が10%台から17%へ上がった

売上は1,804億円から2,880億円(今期予想)へ、10年で1.6倍。数字としては地味です。
面白いのは下の折れ線でした。営業利益率が10.87%から17.01%(今期予想)まで上がっています。
売上が1.6倍なのに、営業利益は196億円から490億円へ2.5倍。売る量より、売り方の中身が変わったということですね。原価率も75%台から72%台へ下がっています。
落ち込んだ年もあります。2021年3月期はコロナで売上が1,964億円まで減り、営業利益率も9.99%まで下がりました。ただ赤字にはなっていません。

ROEは10年間、2021年3月期の7.91%を除いてずっと11%超。今期予想は14.40%です。
自己資本比率が76.7%もある会社でこのROEというのは、少し意外でした。借金でかさ上げしていないという意味なので。
EPSは10年で2.8倍。配当性向は30%台のまま

EPSは66.94円から185.71円(今期予想)へ、10年で2.8倍。
下の配当性向を見ると、20%台から30%台をうろうろしています。2021年3月期の48.3%は、利益が落ちたのに配当を減らさなかった年です。
今期予想は35.0%。配当は増やしているのに配当性向がそこまで上がっていないのは、利益の伸びが配当の伸びに追いついているからです。
無理して配っているわけではない、と読めます。
直近の決算は、四半期の売上が過去最高
2026年8月4日に、2027年3月期の第1四半期決算が発表されました。
売上高719億円(前年同期比16.0%増)、営業利益111億円(同20.7%増)、当期純利益82億円(同25.3%増)。
この719億円は、四半期として過去最高の売上です。
通期予想も売上2,880億円(前期比14.3%増)、営業利益490億円(同32.4%増)と強気のままでした。コマツや大和ハウスのように「今期は減益」という銘柄が続いたあとなので、この数字は目立ちます。
2026年4月、1株が3株になりました
この銘柄を見るときにややこしいのが、株式分割です。
2026年2月9日に決議され、基準日2026年3月31日、効力発生日2026年4月1日で、1株が3株になりました。
株価も1株配当も、理論上は3分の1になります。2026年3月期の配当は会社発表で164円でしたが、分割後に直すと54.67円。同じ配当の話をしているのに、数字が3倍ちがう。
この記事では過去の分もすべて分割後にそろえていますが、証券会社の画面や古い記事を見るときは注意が必要です。
私の取得単価944円も分割後の数字です。分割前で言えば2,832円で買ったことになります。
944円が3,440円になった

この10年の値動きです。
2016年から2023年までの7年間、株価は600円台から1,000円くらいのあいだを行ったり来たりしていました。
退屈な株でした。
動いたのは2023年の後半からです。そこから2026年6月の3,950円まで、ほぼ一本調子で上がっています。今は3,440円。
半導体や電子部品向けの高機能材が伸びたこと、利益率が上がったこと、そして増配。3つが重なった時期でした。
配当利回りの推移と、今の位置

現在の利回りは1.89%です。
過去9年の平均は2.55%なので、平均をはっきり下回っています。高かったのは2022年末の3.64%、低かったのは2025年末の1.59%でした。
配当は10年で3.75倍に増えています。それでも利回りが下がったのは、株価がそれ以上に上がったからです。
2022年末に買っていれば3.64%。今から買うと1.89%。同じ会社の同じ配当方針でも、入る時期でこれだけ変わります。
高配当株を探している人の画面に、今のニチアスは出てきません。それが正しい判断かどうかは別として、数字はそういうことになっています。
私がこの株を持ち続ける理由
簿価利回りが6.89%あるから
944円で買って、今期は65円を受け取ります。6.89%です。
この数字を手放す理由が見つかりません。今の株価で買い直したら1.89%になってしまいます。
DOEと累進配当が、下を支えているから
配当性向だけの会社は、利益が落ちた年に配当も落ちます。DOE5%以上なら、資本が減らないかぎり配当も大きくは減らない。
累進配当という言葉も明記されています。条件付きではありますが、配当で月20万円を目指す身としては、減配しにくい銘柄が1本増えるのは大きい。
利益の質が上がっているから
営業利益率10%台から17%へ、自己資本比率76.7%、有利子負債はほぼゼロ。
値上げが通る商売なのだと思います。断熱材やシール材は、製品全体から見れば安い部品ですが、無いと動かない。バルカーのシール材を持っているときにも同じことを感じました。
リスクと注意点
- 株価水準が高い。PBR2.67倍は2010年以降のレンジ(0.57〜2.57倍)を超えています。PERも18.52倍で、レンジ上限(19.55倍)に近い
- 今の利回りは1.89%。高配当株として新規に買う水準ではありません
- 景気敏感。プラント工事も自動車部品も半導体も、設備投資が止まると影響を受けます。2021年3月期はROEが7.91%まで落ちました
- 累進配当には期限がある。「現在の中期経営計画の期間中」という条件付きです
- アスベストの歴史がある会社。過去に石綿を扱っていた企業で、関連する費用や訴訟のリスクはゼロではありません
売らない。でも、今は買えない
結論はコマツのときと同じになりました。
簿価利回り6.89%を手放す理由はないので、売りません。配当も増え続けていて、方針も強くなっている。持っている理由は十分あります。
ただ、今の株価で買い増すかというと、しません。1.89%は私の基準に合いません。
こういう銘柄が増えてきました。日本電技も日本特殊陶業も同じで、買値が良かったから成立している。今の株価から同じことを再現するのは無理です。
それでも記事にしたのは、持ち続けるとこうなる、という実例が私の口座にあるからでした。10年前に1.73%だった利回りが、私の簿価では6.89%になっている。時間が利回りを作った、という話です。
まとめ
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 私の簿価利回り(6.89%) | ◎ |
| 現在の利回り(1.89%) | ×(過去9年平均2.55%を下回る) |
| 配当実績(10年で3.75倍・減配なし) | ◎ |
| 還元方針(DOE5.0%以上・累進配当) | ◎(ただし累進配当は期間限定) |
| 収益力(営業利益率10.9%→17.0%予想) | ◎ |
| 財務(自己資本比率76.7%・実質無借金) | ◎ |
| 株価水準(PER18.52倍・PBR2.67倍) | ×(PBRは2010年以降のレンジ超え) |
| ポートフォリオでの役割 | 買値が効いている古株。買い増しの枠ではない |
高配当株の記事なのに、利回り1.89%の銘柄を紹介することになりました。
それでもこの会社を書きたかったのは、配当が10年で3.75倍になったからです。買ったときは1%台だった利回りが、持っているうちに6.89%になった。増配というのは、そういう形で効いてきます。
今から買う人にとっては、この記事は「買い」の話ではありません。ただ、増配を続ける会社を早く持つとどうなるか、という記録にはなると思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
・本記事の株価・指標・業績・配当の数字は、2026年9月1日時点のものです。株価は同日の終値、業績と配当は直近の決算実績と会社予想に基づいています。
・2026年4月1日に1株を3株とする株式分割が行われています(基準日2026年3月31日)。記事中の株価・1株配当・EPS・BPSは、過去の分もすべて分割後に換算した数字です。証券会社の画面や古い記事の数字と3倍ずれることがあります。
・直近の四半期決算は2026年8月4日に発表済みで、次回は11月上旬の予定です。最新の数字は必ずご自身でご確認ください。
・DOE5.0%以上と累進配当は会社が掲げる方針であり、将来の配当を保証するものではありません。累進配当は「現在の中期経営計画の期間中」という条件付きです。
・PBR2.67倍は2010年以降のレンジ(0.57〜2.57倍)を上回っています。過去と比べて割安な水準ではありません。
・本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。私自身の保有銘柄について、投資判断の記録として書いたものです。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。

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